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大阪高等裁判所 昭和38年(ラ)233号 決定 1965年4月15日

昭三八(ラ)二三三号抗告人兼同二三四号相手方 野田一男(仮名) 外三名

昭三八(ラ)二三四号抗告人兼同二三三号相手方 野田夏子(仮名)

主文

原審判を次のとおり変更する。

被告人野田一男は被相続人野田和介に対し原審判末尾添付の物件目録(1)、(イ)記載の宅地について昭和二一年一二月末日付譲渡を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

相手方野田夏子、抗告人野田一男、同野田治男、同野田重男、および同田村ルリコは同目録(1)、(二)記載の土地について相続による共有の登記をしたうえ、共同してその地目山林を畑に、地積一反歩を一町二反七畝七歩三合三勺とあらためる地目の変更および地積の更正登記をしたうえ、この土地を原審判末尾添付の図面(A)、(B)、(C)、(D)の四部分に分ち、(A)部分を○○○市○○○四九九番地の三地積二反三合八勺、(B)部分を同番地の四地積二反六畝五合、(C)部分を同番地の五地積一反九畝六合六勺に各分割し、(D)部分を同番地の一地積六反二畝五歩七合九勺として存置する分筆登記手続をせよ。

前項により分筆せられた同番地の三畑二反三合八勺を抗告人野田重男に、同番地の四畑二反六畝五合を抗告人野田一男に、同番地の五畑一反九畝六合六勺を抗告人野田治男にそれぞれ分割取得させる。上記各分割取得者に対し、他の当事者らはそれぞれ持分の移転登記手続をしなければならない。同番地の一畑六反二畝五歩七合九勺、前記物件目録(1)、(二)の土地を除くその余の不動産および同目録(2)記載の動産類を相手方野田夏子に分割取得させる。上記相手方の取得する右畑六反二畝五歩七合九勺について他の当事者らはそれぞれ持分の移転登記手続をしなければならない。

相手方野田夏子は、抗告人野田一男に対し金一一万三、八五三円、抗告人野田治男に対し金八万三、八五三円、抗告人野田重男に対し金一万八、八五三円、抗告人田村ルリコに対し金七四万八、八五三円の各支払いをせよ。(支払いを遅滞するときは、年五分の割合の遅延損害金を附加して支払うものとする。)

抗告人野田夏子の抗告(昭和三八年(ラ)第二三四号事件)はこれを却下する。

理由

一、まず、昭和三八年(ラ)第二三三号事件について判断する。

(一)、抗告の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。

(二)、当裁判所の判断

(1)  抗告人野田一男らは、抗告理由第一点として、原審判は被相続人亡野田和介の遺産に属しないものについて分割をなした違法がある旨主張するので、まず、この点について考察する。

本件記録によれば、原審認定のような事実関係(原審判四枚目裏三行目から七枚目表六行目まで)を認めることができるのでここにこれを引用する。そして、右事実関係によれば、原審判末尾添付の物件目録(1)記載の各土地、建物および同物件目録(2)記載の各動産類はいずれも本件被相続人亡野田和介の遺産に属していたものであることを認めることができ、右認定を動かすことのできる証拠資料はない。そうすると、原裁判所がこれらの不動産および動産類を対象として本件遣産分割の審判(原審判)をなしたのはもとより相当であり、右審判が抗告人らの主張するように、右被相続人の遺産に属しないものについてなされた違法なものであるとなすを得ないことはいうまでもない。

したがつて、右抗告理由第一点は採用に由ないものである。

(2)  次に、前記抗告人らは、抗告理由第二点として、前記物件目録(1)記載の土地中畑の部分の分割方法が実情に適せず不公平である旨主張するので、この点について考察する。

おもうに、遺産の分割は、遺産に属する物または権利の種類および性質、各相続人の職業その他一切の事情を考慮してなすべきものであつて、このことは民法九〇六条の明定するところである。したがつて、右畑の部分の分割方法が実情に適するかどうかも結局右の基準に照らして検討しなければならない。これを本件についてみるに、まず、本件記録中鑑定人小喜多六三郎の昭和三八年九月八日付、同月一三日付各鑑定の結果によれば、本件遺産の総価格は計金八九八万六、二三〇円に達することを認めることができるところ、その詳細は原審判理由記載(原審判八枚目表二行目から同枚目表末行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。そこで、右価格を本件相続人である相手方および抗告人らの法定相続分(相手方は三分の二、抗告人らは各一二分の一)に応じて配分すると、相手方の取り分は金五九九万〇、八二〇円、抗告人らの取り分は各金七四万八、八五三円(五〇銭以上切上げ)となることが計数上明らかである。ところで、前記(一)で認定した事実関係に本件記録中の家庭裁判所調査官光信隆夫作成の昭和三六年七月五日付、昭和三八年二月五日付各調査報告書の各記載、鑑定人藪内幸太郎の鑑定の結果、および原裁判所の検証の結果を総合すると、本件被相続人亡野田和介はぶどう栽培の権威で、生前前記物件目録(1)記載の(ハ)ないし(ト)の各土地(いずれも現況畑地)でぶどう園を経営し、その死亡後は、相手方野田夏子がその遺産管理人としてこれを経営維持していること(もつとも(ホ)の土地の一部は現在他に賃貸中である)、抗告人田村ルリコを除くその余の抗告人らもいずれもぶどう栽培に従事し、抗告人野田重男は同目録記載の(ニ)の土地(実面積一町二反七畝七歩三合三勺)のうち原審判末尾添付の図面(A)の畑地部分に、抗告人野田一男は同図面(B)の畑地部分に、抗告人野田治男は同図面(C)の畑地部分に各接続してそれぞれぶどう園を経営していること、なお、右物件目録(1)記載の(イ)の土地上にある(ロ)の各建物は、現在相手方野田夏子が占有居住し、また、前記物件目録(2)記載の各動産類はいずれも右(ロ)の各建物内におかれてあつて、現在右相手方が占有使用しているのであることをそれぞれ認めることができるところ、原審鑑定人宮本熊太郎、同塩野浅治郎の共同鑑定の結果によれば、右図面(A)の畑地部分の価格は金七三万円、同(B)の畑地部分の価格は金六三万五、〇〇〇円、同(C)の畑地部分の価格は金六六万五、〇〇〇円であることが認められる。

そこで、これを前記遺産分割の基準に照らして考察すると、本件遺産の分割方法としては、このうち右図面(A)の畑地部分は抗告人野田重男の、同(B)の畑地部分は抗告人野田一男の、また、同(C)の畑地部分は抗告人野田治男の各所有とし、なお、その他の畑地部分を含む残余の遺産はすべて相手方野田夏子の所有とし、その代りに、右相手方をして抗告人田村ルリコの前記取り分金七四万八、八五三円、抗告人野田重男の取り分不足額一万八、八五三円(前記取り分から前記(A)の畑地部分の前記価格を差し引いた金額)、抗告人野田一男の取り分不足額一一万三、八五三円(前記取り分から前記(B)の畑地の前記価格を差し引いた金額)、抗告人野田治男の取り分不足額八万三、八五三円(前記取り分から前記(C)の畑地部分の価格を差し引いた金額)をそれぞれ右抗告人らに支払わせるのが、本件遺産分割の趣旨にもかない、また、実情にも即した処置であるといわなければならない。

そうすると、原審判が、右と同じ見地に立つて本件遺産の分割を行ない、右(A)の畑地部分を抗告人野田重男の、(B)の畑地部分を抗告人野田一男の、(C)の畑地部分を抗告人野田治男の各所有に、その余の畑地を相手方野田夏子の所有に各分割したのはもとより相当であつて、これが抗告人らの主張するように実情に適せぬ不公平な措置であるとなすを得ないものであることはいうまでもない。

したがつて、抗告理由第二点も採用できない。

(3)  なお、相手方野田夏子は、前記物件目録(1)記載の(イ)の土地および(ロ)の各建物の鑑定価格は市価に比して高きに失し、したがつて右鑑定価格をそのまま採用し、これに基づいて本件遺産分割をなした原審判は不当である旨主張する。しかしながら、本件記録中の鑑定人小喜多六三郎の鑑定の結果によれば、右(イ)の土地の価格は金一三九万円、右(ロ)の各建物の価格は計金一六五万五、〇〇〇円以上合計金三〇四万五、〇〇〇円であることを認めることができるところ、右鑑定価格が市価に比して高きに失し不当なものであることを認め得る証拠は一つもなく、右鑑定価格は相当というべきである。したがつて、原裁判所が右鑑定価格に基づき右土地、建物を前記金三〇四万五、〇〇〇円と評価し、これを本件遺産分割の一資料としたのはもとより相当であつて、原審判にはこの点なんらの瑕庇もないから、相手方野田夏子の前記主張は採用に由ない。

(4)  ただ、前記物件目録(1)記載の(イ)の土地につき被相続人亡野田和介が抗告人野田一男より分家に伴う交換によつて所有権の譲渡を受けたのは遅くとも昭和二一年一二月末日であることが原審記録中の前記抗告人ら(抗告人野田一男を除く)および相手方野田夏子の各審尋の結果によつて認められるのであつて、被相続人亡野田和介生前の所有権取得として同人名義に移転登記をさせるためには、登記原因としてそのことを明らかにしておく必要があるので(不動産登記法四二条)、原審判主文(1)を右のとおり是正する。

また、同物件目録(1)記載の(二)の土地についての原審判主文(2)の更生、分筆登記は登記名義人よりなすべきものであるから、一旦前記抗告人および相手方ら相続による共有の登記をし(共有の登記は保存行為として相続人一人でなすことも許される)たうえで相続人全員からなすべきものである。もつとも、本件審判書を代位原因を証する書面として代位による申請も許されないことはないが、遺産の分割による取得登記は他の共同相続人からの持分の移転による移転登記手続を経由しなければならないから、原審判主文(3)、(4)に右移転登記義務をかかげるのが相当であつて、この点に関する原審判の説示は失当である。

二、つぎに、昭和三八年(ラ)第二三四号事件について判断する。

遺産分割の如き非訟的な裁判の不服申立てについては、裁判所は当事者の挙示する不服申立ての限度になんら拘束されることなく事件全般について審理判断をなしうるのであるから、すでに当事者の一方から抗告があつた以上、その後における他方からの抗告は二重抗告となり民訴法三七八条、二三一条に照らし不適法といわなければならない。(もつとも、前になされた抗告事件の審理にあたり後になされた抗告事件の抗告理由についても考慮して審理判断をなすべきであり、本件抗告の抗告理由について、すでに判断していることは前記のとおりである。)したがつて、本件抗告の申立ては却下を免れない。

三、よつて、原審判を一部変更すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 金田宇佐夫 判事 日高敏夫 判事 野間礼二)

抗告理由 省略

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